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特許の知識

実用新案技術評価書とは?

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1.実用新案技術評価書とは?

実用新案技術評価書とは、実用新案権の有効性について、特許庁の審査官が評価した書面です。

 

実用新案制度では、特許制度と異なり、考案の早期権利保護を図る観点から、実用新案登録出願が方式に関する要件を満たしていれば、新規性・進歩性等の実体審査を行うことなく実用新案権の設定登録がされます。方式に関する要件としては、例えば、保護対象となる考案であるか否か、書類が経済産業省令に則って作成されているか等があげられます。

 

新規性・進歩性等の実体審査を行わないため、すでに世の中に知られている技術であっても、実用新案権の設定登録がされますが、このような実用新案権は有効な権利とはいえません。

 

そこで、登録された権利が有効か否かの判断をする判断材料となる実用新案技術評価書を請求できる技術評価制度が設けられています。実用新案技術評価書では、特許庁の審査官が先行技術文献の調査を行い、登録された考案の新規性・進歩性等についての評価が示されます。

実用新案法第12条第1項には、以下のように規定されています。

 

実用新案登録出願又は実用新案登録については、何人も、特許庁長官に、その実用新案登録出願に係る考案又は登録実用新案に関する技術的な評価であつて、第3条第1項第3号及び第2項(同号に掲げる考案に係るものに限る。)、第3条の2並びに第7条第1項から第3項まで及び第6項の規定に係るもの(以下「実用新案技術評価」という。)を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係る実用新案登録出願又は実用新案登録については、請求項ごとに請求することができる。

実用新案技術評価書を取得するためには、特許庁に実用新案技術評価請求書を提出します。

実用新案技術評価は、請求項ごとに請求可能です。

また、実用新案技術評価書を請求するために特許庁へ支払う金額は、42,000円+(請求項の数×1,000円)と定められています。

 

実用新案技術評価の請求は、実用新案権を有している権利者でなくても、誰でも請求することができます。

また、出願された実用新案登録出願、及び、設定登録された実用新案権について、出願以降いつでも、請求することができます。請求の回数制限はありませんので、例えば、実用新案権者であれば、請求した技術評価の結果が否定的なものであった場合に、請求項を訂正したうえで、再度、技術評価の請求をすることができます。

2.実用技術評価書の必要性

実用新案技術評価書は、実用新案権の有効性を特許庁の審査官が評価するものですが、取得した実用新案技術評価書は、具体的にどのような場面で必要になるのでしょうか?

それは、権利行使の場面です。

 

実用新案法では、実用新案権の権利行使前に、相手方に対し、実用新案技術評価書を提示して警告することが必要であると、規定されています。新規性・進歩性等の要件を満たさないような有効でない権利が行使され、第三者が不測の損害を被ることを防止するためです。

 

実用新案法第29条の2

実用新案権者又は専用実施権者は、その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ、自己の実用新案権又は専用実施権の侵害者等に対し、その権利を行使することができない。

 

実用新案技術評価書を提示せずに行った警告は有効なものとは認められず、実用新案権の権利行使(例えば、差止請求や損害賠償請求)は、認容されません。

3.実用技術評価書の内容

実用新案技術評価書には、請求項ごとに、以下の「1」~「6」までの評価、先行技術文献、及び評価についての説明が記載されます。

 

1:引用文献の記載からみて、新規性がない旨の評価

2:引用文献の記載からみて、進歩性がない旨の評価

3:拡大先願がある旨の評価

4:先願がある旨の評価

5:同日出願がある旨の評価

6:先行技術文献等を発見できなかった旨の評価

 

つまり、「1」~「5」の評価の場合、実用新案権について、審査官から否定的な評価をされたことになります。一方、「6」の評価の場合、肯定的な評価をされたということになります。

評価が「1」~「5」の場合、特許庁の審査官が否定的な評価をしていることから、他人に対して権利行使を行うことはかなり難しくなります。ただ、審査官の評価が間違っている場合もあるため、自己調査、複数の弁理士による鑑定、所定の調査機関での調査等により、権利が有効であると判断できれば、権利行使できる可能性もあります。

なお、否定的な評価に対して、審査官に反論することはできません。しかし、この場合でも、請求の範囲の減縮をする訂正を行い、再度、技術評価をしてもらうことは可能です。

 

一方、評価が「6」の場合、特許庁の審査官が肯定的な評価をしていることから、ある程度安心して権利行使をできるということになりますが、「6」の評価を受けたとしても、権利が絶対に有効であるとは限りません。

実用新案技術評価書では、上記「1」~「5」の項目しか評価されませんが、実用新案権が有効であるか否かの登録要件は、上記「1」~「5」以外にも存在します。そのため、上記1~5の項目以外の理由で実用新案権の有効性が否定される可能性があるのです。

 

ちなみに、もし、自身が権利侵害をするおそれのある実用新案権を発見したとしても、何もせずその実施をあきらめるのでなく、実用新案技術評価書によりその実用新案権について否定的な評価を得て、権利が無効であると判断できれば、自由な実施が可能となる場合があります。

4.実用新案権を行使する場合の注意点

実用新案権の行使の際には、有効でない権利を濫用することのないよう、特許と比べ、より高度な注意義務が権利者に課されます。例えば、上述のとおり、実用新案権を行使するためには、必ず実用新技術評価書を取得し、事前に提示して警告しなければなりません。

さらに、権利行使をした後に、その実用新案権が無効になってしまった場合、権利者は、権利行使をした相手方に与えた損害賠償責任を負う可能性があることに注意する必要があります。

(特許権は、特許庁による実体審査を経て発生するものなので、このような規定はありません。)

 

実用新案法第29条の3第1項には、実用新案技術評価書の実用新案技術評価に基づき警告・権利行使したこと、又は、その他相当の注意をもって警告・権利行使をしたケースを除き、相手方に与えた損害を賠償する責任が生じる旨が、規定されています。

実用新案法第29条の3第1項

実用新案権者又は専用実施権者が侵害者等に対しその権利を行使し、又はその警告をした場合において、実用新案登録を無効にすべき旨の審決(第37条第1項第6号に掲げる理由によるものを除く。)が確定したときは、その者は、その権利の行使又はその警告により相手方に与えた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、実用新案技術評価書の実用新案技術評価(当該実用新案登録出願に係る考案又は登録実用新案が・・・実用新案登録をすることができない旨の評価を受けたものを除く。)に基づきその権利を行使し、又はその警告をしたとき、その他相当の注意をもつてその権利を行使し、又はその警告をしたときは、この限りでない。

ここで、権利者が損賠賠償を免責されるための条件について、『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第21版〕』(一般社団法人発明推進協会 発行)には、以下のように記載されています。

 

権利者が免責されるためには、相当の注意をもって権利を行使したことを立証する必要があり、そのような立証を行うには、権利者は、実用新案技術評価書の請求、自己調査、鑑定等により自ら権利の有効性を確保する必要がある。

 

つまり、実用新案権が無効となった場合に、権利者が損害賠償を免責されるには、実用新案技術評価書の請求、自己調査、鑑定等を行うことで、事前に実用新案権の有効性を十分に確認することが必要となります。

また、実用新案技術評価を行う際の調査範囲や評価する登録要件は限られていますので、実用新案技術評価書で肯定的な評価を得られていても、評価書の調査の対象外の文献、公知、公用の技術等について必要と認められる範囲の調査、実施可能要件やサポート要件を満たすかについての鑑定の利用等を検討するべきでしょう。

実用新案権は、早期に権利を取得でき、ライフサイクルの短い商品等を保護できる点では、有効な権利かもしれませんが、権利行使の際には、特許権以上に十分な注意と検討をする必要があります。

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