産業上の利用可能性とは?
1.産業上の利用可能性とは?
特許制度は、発明を保護することにより産業の発展に寄与することを目的としています。ですから、産業上、利用できない発明について特許を認めることは適切ではありません。
そこで、日本の特許制度では、特許要件の1つとして、「産業上の利用可能性」が求められています。産業上の利用可能性のない発明は、拒絶理由の対象となります。
では、産業とは何でしょうか。特許・実用審査基準によれば、「この「産業」には、製造業、鉱業、農業、漁業、運輸業、通信業等が含まれる。」とされています。ただ、ここには含まれないような、例えば、サービス業や小売業などに関する発明なども、産業上の利用可能性はありますので、ご安心ください。
以下で、どのようなものが産業上の利用可能性を有しないかを見ていただくことで、産業上の利用可能性についてのご理解を深めていただけることができるのではないかと思います。
2.産業上の利用可能性の要件を満たさない発明
産業上の利用可能性の要件を満たさない発明とはどういうものかを、見ていきましょう。
特許・実用審査基準によれば、以下の(i)から(iii)のいずれかに該当する発明は、産業上の利用可能性を有しないと判断されます。
(i) 人間を手術、治療又は診断する方法の発明
(ii) 業として利用できない発明
(iii) 実際上、明らかに実施できない発明
(i) 人間を手術、治療又は診断する方法
通常、医師が人間に対して手術、治療又は診断を実施する「医療行為」といわれているものは、産業上の利用可能性の要件を満たさないと、判断されます。
人間を手術する方法には、通常の手術だけでなく、切開や注射など人体に対して外科的処置を施す方法、人体内でカテーテルや内視鏡などの装置を使用する方法、麻酔などの手術のための予備的処置方法が含まれます。
人間を治療する方法には、患者に投薬、物理療法等の手段を施す方法のほか、人工臓器、義手等の代替器官を取り付ける方法、病気の予防方法や、治療のための予備的処置方法などが含まれます。また、意外なことに、マッサージ方法、指圧方法も健康状態を維持するための処置ですから、人間を治療する方法として判断されます。
人間を診断する方法としては、医療目的で人間の病状や健康状態等の身体状態又は精神状態を診断する方法があげられます。
一方で、医療機器や医薬等の物の発明は、「人間を手術、治療又は診断する方法」には該当しません。胸部にX線を照射して肺を撮影する方法など、人間の身体の構造又は機能を計測して人体から資料を収集する方法も、「人間を手術、治療又は診断する方法」には該当しません。
ここまでご説明しましたように、人間を手術、治療又は診断する方法は、産業上の利用可能性を有しないと判断されますが、人間以外の動物を手術、治療又は診断する方法であれば、産業上の利用可能性を有します。ですから、例えば「手術方法」の請求項について、産業上の利用可能性を有しないと判断された場合は、請求項の「手術方法」との記載を「手術方法(人間への医療行為は除く)」といったような記載に補正することで、拒絶理由を解消することができます。
また、人間の身体に対し、何等かの働きかけをする方法の発明については、医療行為を意図するものでなかったとしても、人間を手術、治療又は診断する方法に該当する、と判断されることがあります。例えば、「肌のシワを改善する美容方法」の発明については、人間を治療する方法であると、判断される場合があります。このような場合は、請求項の「肌のシワを改善する美容方法」との記載を「肌のシワを改善する美容方法(医療行為は除く)」といったような記載に補正することで、拒絶理由を解消することができます。
(ii) 業として利用できない発明
喫煙方法など、個人的にのみ利用される発明や、学術的、実験的にのみ利用される発明は、「業として利用できない発明」に該当し、産業上の利用可能性の要件を満たしません。
(iii) 実際上、明らかに実施できない発明
理論的にはその発明を実施することが可能であっても、その実施が実際上考えられない発明は、「実際上、明らかに実施できない発明」に該当します。例えば、地球全体を紫外線フィルムで覆う方法などは、「実際上、明らかに実施できない発明」に該当し、産業上の利用可能性の要件を満たしません。
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