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特許の知識

初学者のための新規性・進歩性の拒絶理由対応

特許の審査において、もっとも高い頻度でだされる拒絶理由が、新規性と進歩性の拒絶理由です。ここでは、特許の実務に十分に習熟されていない初学者の方に向けて、新規性と進歩性の拒絶理由への対応方針を、どのように検討すればよいのかについて、ご説明します。

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1.拒絶理由通知の内容把握

まずは、拒絶理由通知の内容を読んで、審査官がどのように判断しているのかを把握します。

 

多くの拒絶理由通知では、最初に、本願発明と引用文献に記載の発明との一致点と相違点が書かれています。そして、その後に進歩性の存在を否定しうる理由、つまり、当業者が相違点を容易に想到し得ると判断した理由が書かれています。

 

例)

拒絶理由:

請求項に係る発明と引用文献1に記載された発明は、化合物Aとアルコール成分を反応させる点で共通する。引用文献1にはアルコール成分としてエタノールを用いることの記載はないが、引用文献1の明細書には、用いられるアルコール成分は炭素数の少ないアルコールの方が好ましいことが記載されている。したがって、引用文献1において、化合物Aと反応させるアルコール成分として、エタノールを採用することは、最適材料の選択に過ぎない。

 

例)

拒絶理由:

請求項に係る発明と引用文献1に記載された発明は、○○手段を有する点で共通するが、引用文献1には△△手段についての記載がない。一方、引用文献2には、△△手段が記載されている。引用文献1及び引用文献2は、いずれも××分野に属するものであり、□□という課題も共通する。したがって、引用文献1において、引用文献2を参考に△△手段を採用することは、当業者が容易に考え得ることである。

 

例)

拒絶理由:

請求項に係る発明と引用文献1に記載された発明は、○○手段を有する点で共通するが、引用文献1には△△手段についての記載がない。一方、引用文献2には、△△手段が記載されている。○○手段を有する□□装置において、△△手段を設けることは、単なる寄せ集めに過ぎず、格別な効果も認められない。したがって、引用文献1において、引用文献2を参考にして△△手段を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

点線が、本願発明と引用文献との一致点と相違点についての記載です。波線が、「本願発明と引用文献との相違点となっている発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得るものである」と判断する理由が記載されています。

次に、審査官の認定に基づいた構成対比表を作成しましょう。

構成対比表を作成することで、審査官がどのように判断しているのかを整理して把握することができるようになります。まずは、独立請求項からです。独立請求項を複数の発明特定事項に分割します。

 

構成対比表では、本願請求項の発明特定事項と同じ内容、又は、その発明特定事項の下位概念が引用文献に記載されている場合は「○」をつけます。

 

請求項の発明特定事項と同じ内容、又は、その発明特定事項の下位概念が引用文献に記載されていない場合は「×」をつけます。請求項の発明特定事項よりも上位概念が引用文献に記載されているけれども、その発明特定事項と同じ内容又はその下位概念が引用文献に記載されていない場合は「×」となります。

1つの引用文献で請求項の発明特定事項のすべてが「○」になる場合、本願発明は新規性を有さない、ということになります。一方で、1つの引用文献で請求項の発明特定事項のすべてが「○」にならない場合、本願発明は新規性を有していると言えます。新規性を有していれば、あとは、進歩性を有するか否かの問題となります。

 

例)新規性なしの場合

 本願発明 引用文献1
 A手段  ○
 B手段  ○
 C手段  ○

 

引用文献1にはA手段、B手段、C手段の全てが記載されており、本願発明は新規性を有しません。この審査官の判断に誤りがない限り、請求項を補正することが必要となります。

 

例)進歩性なしの場合

 本願発明 引用文献1
 A手段  ○
 B手段  ○
 C手段  ×

 

引用文献1にはC手段について記載されていませんが、審査官は、引用文献1の記載においてC手段を採用することは、当業者にとって容易であると審査官は判断しています。

例)進歩性なしの場合

 本願発明 引用文献1 引用文献2
 A手段  ○  ○
 B手段  ○  ×
 C手段  ×  ○

 

複数の文献の組み合わせで進歩性がないと判断されている場合は、複数の文献を組み合わせることで、請求項の発明特定事項のすべてが「〇」になります。

2.対応方針の切り口

拒絶理由通知の内容を把握し、構成対比表を作成して、審査官の判断を正確に理解することができれば、次は、拒絶理由通知における審査官の判断に対して反論できる点を探します。

 

以下では、主な対応方針の切り口について、説明します。

 

例えば、本願発明が、発明特定事項としてA及びBを有する場合であって、主引用文献に発明特定事項Aが記載されているが、発明特定事項Bが記載されておらず、主引用文献において発明特定事項Bを採用することは容易に想到し得る、と判断されている場合、以下のような点が反論となりえます。

①「主引用文献に発明特定事項Aが記載されている」という判断に誤りがある場合

 

  • 請求項の発明特定事項Aの解釈に誤りがある場合

⇒ ≪対応策≫ 発明特定事項Aの解釈が誤っている理由を説明する

   or

  ≪対応策≫ 発明特定事項Aの解釈に誤りが生じないように請求項を補正する

 

  • 引用文献の記載に対する解釈の誤り

⇒ ≪対応策≫ 引用文献の解釈が誤っている理由を説明する

②「主引用文献において発明特定事項Bを採用することが容易に考えられる」という判断に誤りがある場合

 

  • 審査官が発明の効果を考慮していない場合 or 「優れた発明の効果を有するものではない」という判断に誤りがある場合

⇒ ≪対応策≫ 発明の効果が、主引用文献に比べて優れたものであることを説明する

 

  • 「主引用文献において相違点である発明特定事項を採用することは容易」という判断の誤りがある場合

⇒ ≪対応策≫ 主引用文献において発明特定事項Bを採用することは容易でない理由を説明する

   or

⇒ ≪対応策≫ 主引用文献において副引用文献の技術を採用しても、本願と同じ構成(発明特定事項A+発明特定事項B)とならないことを説明する。

 

これらのいずれかの切り口から審査官の判断の誤りを見つけ、それを説明すれば、新規性・進歩性を有しないという拒絶理由を解消することができます。以下で、それぞれの切り口について、より詳しく見ていきたいと思います。

3.一致点・相違点の認定

まず、「本願発明の発明特定事項が引用文献に記載されている」という、審査官の判断が妥当なものであるかを検討します。審査官の判断が妥当なものではない場合は、この発明特定事項が、本願発明と引用文献との相違点となります。うまくいけば、これを理由に、拒絶理由が解消されることもあります。

 

 

本願請求項の発明特定事項と同じ内容、又は、その発明特定事項の下位概念が、引用文献に記載されている場合は、引用文献には、本願の発明特定事項が記載されていると言えます。一方、本願請求項の発明特定事項と同じ内容、又は、その発明得意事項の下位概念が、引用文献に記載されていない場合は、引用文献には、本願の発明特定事項が記載されていないと言えます。

例)請求項 ・・・アルカリ金属

  引用文献・・・リチウム

    ⇒ 引用文献には、請求項の発明特定事項であるアルカリ金属が記載されている。

 

例)請求項 ・・・リチウム

  引用文献・・・アルカリ金属

    ⇒ 引用文献には、請求項の発明特定事項であるリチウムは記載されていない。

審査官の判断が妥当であるか否かを詳細に検討するには、本願請求項の発明特定事項を分節するとよいです。分節ごとに、引用文献に記載されているか否かを判断し、引用文献に記載されていない分節が1つでもあれば、その分節が相違点になります。

 

例)操作指示受付手段によりスキルの選択を受け付けると、

効果記憶手段に記憶された効果にしたがって、

受け付けられたスキルに対応する効果を発現させる効果発現手段

 

 ↓

 

操作指示受付手段により/スキルの選択を受け付けると、/

効果記憶手段に記憶された効果にしたがって、/

受け付けられたスキルに対応する/効果を発現させる効果発現手段/

 

例えば、引用文献において、スキルの選択を受け付けずに自動的に効果が発現していた場合は、本願発明の効果発現手段は、引用文献に記載されていないことになります。

その他、本願の請求項が数値範囲で限定されている場合、引用文献の実施例に開示されたものが、その数値範囲を満たすことが明示されていない場合であっても、「その数値範囲を満たす蓋然性が高い」として、引用文献の実施例にその数値範囲を満たすものが記載されている、と判断されることがあります。

 

このような場合には、引用文献の実施例に記載されたものが、その数値範囲に該当するものではないことを証明できるかについて検討します。

 

本願の請求項の数値範囲を満たすものを製造するためには、どのような方法で製造することが必要であるのかを、本願明細書の記載から探します。

 

本願の請求項の数値範囲を満たすために、そのような方法で製造すればよいのかが明らかになれば、引用文献の実施例で、そのような方法が用いられているかを確認します。引用文献の実施例で、本願の実施例と同じような方法が用いられていなければ、引用文献の実施例で開示されたものは、本願の請求項の数値範囲を満たさない可能性が高いと言えます。意見書では、このことを説明します。

例)

請求項1:X試験法により測定した透明度の値が90~98%であるフィルム。

 

拒絶理由:

引用文献の実施例には、フィルムの透明度を、X試験法により測定することは記載されていない。しかし、引用文献の実施例に記載されたフィルムは、本願明細書の実施例に記載されたフィルムと同じような組成を有するものであり、X試験法により透明度を測定した場合に、90~98%となる蓋然性が高い。よって、請求項1に係る発明は新規性を有しない。

 

検討事項:

本願明細書の記載から、X試験法により測定した透明度が90~98%となるフィルムを製造するための条件を探しだす。引用文献で開示されたフィルムが、この条件で作成されていなければ、X試験法により透明度の値を測定した場合に、90~98%にはならないことを主張することができる。

 

このように、引用文献の実施例で開示されたものが、本願の請求項の数値範囲を満たさないことを説明するだけでなく、クライアントに依頼をして、引用文献の実施例に相当するものについて実験を行い、本願の請求項の数値範囲を満たさないことを証明してもよいでしょう。

4.発明の効果

発明の効果は、発明の進歩性を肯定する要素の1つです。本願の請求項と引用文献の記載に相違点がある場合には、相違点に基づく発明の効果を主張できるか否かを検討します。

 

本願の請求項と引用文献の記載に相違点があったとしても、その相違点に基づく効果が予想できるものである場合は、進歩性を主張することは難しくなります。その相違点に基づく効果が予想できないものである場合は、進歩性を主張するための一つの材料となります。

 

例)引用文献が1つの場合

 

 本願発明 引用文献1
 A手段  ○
 B手段  ○
 C手段  ×

 

A手段、B手段、C手段の全てがある場合と、A手段とB手段はあるがC手段がない場合との効果の差が予想できないものであれば、進歩性を主張することができます。

例)引用文献が複数の場合

 

 本願発明 引用文献1 引用文献2
 A手段  ○  ○
 B手段  ○  ×
 C手段  ×  ○

 

A手段、B手段、C手段の全てを有する場合と、A手段とB手段は有するがC手段を有さない場合との効果、又は、A手段とC手段は有するがB手段を有さない場合との効果の差が予想できないものであれば、進歩性を主張することができます。

5.動機付けと阻害要因

複数の引用文献を組み合わせて、本願発明の進歩性が否定されている場合は、引用文献の技術分野の関連性や、課題の共通性は、進歩性を否定するための動機付けとなります。これらの動機付けがないことを説明することで、進歩性を主張することができます。

 

複数の引用文献を組み合わせて、本願発明の進歩性が否定されている場合は、主引用文献と副引用文献の技術分野が関連しているかを確認します。技術分野の関連性が低い場合は、反論の切り口となり得ます。

 

例)

主引用文献がガソリンエンジン(ピストンが往復)である場合、副引用文献がディーゼルエンジン(ピストンが往復)であるときよりも、副引用文献がロータリーエンジン(ローターが回転)であるときの方が、技術分野の関連性が低いと言える。

 

ただし、単に、主引用文献と副引用文献の技術分野の関連性が低い、と主張するだけでは、進歩性が認められる可能性はそれほど高くはありません。技術分野が異なることに起因して、副引用文献の技術を、主引用文献で採用することが困難な理由を説明できた方がよいでしょう。

また、複数の引用文献を組み合わせて、本願発明の進歩性が否定されている場合は、主引用文献と副引用文献の課題が共通しているかも確認しましょう。課題の共通性が低い場合は、反論の切り口となり得ます。

 

例)

主引用文献の課題が「ゲームサーバの処理負荷を軽減すること」である場合、副引用文献の課題が「ゲームサーバの処理負荷を軽減すること」であるときよりも、副引用文献の課題が「ゲームの趣向性を向上させること」であるときの方が、課題の共通性が低いと言える。

 

ただし、単に、主引用文献と副引用文献の課題の共通性が低い、と主張するだけでは、進歩性が認められる可能性は、それほど高くありません。主引用文献において副引用文献の技術を採用すると、主引用文献の課題に反することになるなど、主引用文献において副引用文献の技術を採用することに阻害要因があることを説明することが望ましいでしょう。

例えば、主引用文献に副引用文献の技術を採用した場合に、主引用文献の課題に反することにならないかを検討します。主引用文献の課題に反する結果となる場合は、主引用文献に副引用文献の技術を採用することに阻害要因がある、ということになり、この点で反論をすることができます。

 

例)

本願発明 :自動車のエンジンについての発明(A手段、B手段、C手段を備えるエンジン)

引用文献1:自動車のエンジンについての発明(A手段、B手段を備えるエンジン)

      課題は、燃費を向上させること。

引用文献2:自動車のエンジンについての発明(C手段を備えるエンジン)

 

拒絶理由 :

引用文献1には、A手段とB手段は記載されているが、C手段は記載されていない。引用文献2には、C手段が記載されている。引用文献1において引用文献2に記載されたC手段を採用することは容易である。

 

検討事項 :

引用文献1においてC手段を採用すると、引用文献1の課題に反するような結果になるかを検討する。A手段、B手段を備えるエンジンにおいてC手段を採用すると、燃費が悪くなるような場合は、その理由を説明することで、反論をすることができる。

 

本願発明と主引用文献との相違点が周知技術であると判断されている場合は、周知技術が副引用文献にあたると考えてみると、複数の文献の組み合わせによる拒絶理由と、同様の構造をしていることがわかります。つまり、本願発明が、主引用文献と、副引用文献としての周知技術との組み合わせにより、進歩性が否定されていると考えることができます。

6.補正の検討

独立請求項を補正せずに対応することが難しいと考えられる場合は、下位の請求項、或いは、明細書内の記載をもとに、独立請求項を限定して、進歩性の拒絶理由を解消することを検討します。

 

どのように請求項を補正すれば、本願発明と引用文献の相違点を見出すことができるかが分からない場合は、本願発明の実施例と、引用文献の実施例を比較するとよいです。

 

実施例どうしを詳細に比較すると、いくつかの違いが見えてきます。その違いにより、発明の効果にも違いがでると考えられる場合は、その違いが本願発明と引用文献との相違点になるように、請求項を補正することを検討します。

 

例)

本願明細書の実施例の組成物 引用文献の実施例の組成物
A成分 100g A成分 100g
B成分 35g B成分 30g
C成分 10g C成分 8g
D成分 3g D成分 0.2g

 

A成分、B成分、C成分の質量比はそれほど大きく変わらないが、D成分が15倍も異なることがわかる。このような違いを発見した場合は、本願明細書のD成分についての記載を探し、補正の根拠となり得るかを確認する。

 

例)

本願明細書の実施例の組成物 引用文献の実施例の組成物
A成分 100g A成分 100g
B成分 35g B成分 45g
C成分 10g C成分 7g

 

A成分、B成分、C成分の質量比は、一見それほど大きく変わらないようであるが、B成分とC成分の比率が大きく異なる場合がある(本願はB/C=3.5、引用文献はB/C=6.4)。B成分とC成分が反応するなど、相互作用が発生する成分の場合は、2成分の比率の違いも確認する。このような違いを発見した場合は、本願明細書のB成分とC成分の比率についての記載を探し、補正の根拠となり得るかを確認する。

 

請求項をどのように補正するのかを決定できれば、上でご説明をしたように、補正後の請求項について、どのように進歩性を主張するのかを検討していきます。

 

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