ビジネスモデル特許の取得は難しい? 特許が取得しやすいアイデアとは?
1.ビジネスモデル特許の取得は難しい?
ビジネスモデル特許とは、ビジネスを実施する際の技術的な工夫についての特許です。
ビジネスモデル特許を取得することで、同じビジネスモデルを実施する他社に対して、優位性をもってビジネスを進めることができます。
では、このビジネスモデル特許を取得することは難しいのでしょうか。
特許庁の統計によると、ビジネスモデル特許の特許査定率は、2000年以降、右肩上がりで上昇しており、2012~2014年は、3年連続で、特許査定率が67%となっております。現在も、同程度の特許査定率であると考えられます。
なお、特許庁では、特許査定率=特許査定件数/(特許査定件数+拒絶査定件数+FA後取下・放棄件数)と定義しており、簡単に言うと、審査を受けたもののうち、特許査定となったものの割合です。
審査を受けたもののうち、70%弱が特許になっていると考えると、ビジネスモデル特許を取得するのは、それほど難しくなさそうに感じられるのではないでしょうか。
もう一つ、ビジネスモデル特許を取得することがそれほど難しくない証拠を、ご紹介したいと思います。
今、世界で大注目の企業であるAmazon社の特許第5377961号(発明の名称:目録品目を取り出すための方法およびシステム)をご紹介します。
Amazon社では、少しでも早く商品を発送するため、自社の倉庫内においてキヴァシステムというシステムを採用しています。通常であれば、ECサイトで注文を受けると、人が倉庫内を移動して商品をピックアップし、商品を段ボール等に収納して発送するという発想になりますが、キヴァシステムは異なります。キヴァシステムでは、商品をピックアップする人(ピッカー)のところまで、床の上を走行する自動駆動ユニットが商品を収納した棚を移動させます。この結果、人は移動することなく、必要な商品を集めることができ、注文を受けてから発送までの時間を大幅に短縮することができます。
特許第5377961号の請求項1は、以下の通りです。
【請求項1】
目録品システム内の目録品目を取り出す方法であって、
目録品目を指定する取り出し要求を受領する段階と;
複数の目録品ステーションからその取り出し要求を満たす任意の目録品ステーションを選択する段階と;
その目録品目を保管する複数の目録品ホルダーから目録品ホルダーを選択する段階と、
複数の自己動力の移動駆動ユニットから、選択された目録品ホルダーを作業スペース内で自由に動かして選択された目録品ステーションに移動させる任意の移動駆動ユニットを選択する段階とを有する方法。
ここで、「目録品目」は商品を指します。「目録品ステーション」はピッカーと呼ばれる担当者が、商品を配送用の段ボールに収納する場所(以下、ステーション)を指し、「目録品ホルダー」は、商品を収納した棚を指します。
特許第5377961号の請求項1の内容を分かりやすくすると、
商品の取出要求を受領すると、複数のステーションから取出要求を満たすためのステーションを選択し、複数の棚から棚を選択し、複数の移動駆動ユニットから、選択された棚をステーションに移動させるための移動駆動ユニットを選択する、
という内容になります。
つまり、特許第5377961号は、「商品の取出要求を受けると、ステーションを選択し、棚を選択し、移動駆動ユニットを選択する」という内容だけで、特許が認められているのです。
この事例をみると、ビジネスモデル特許の取得は、そんなに難しくないような気がしませんでしょうか。
2.特許が取得しやすいアイデアとは?
ビジネスモデル特許を取得することがそれほど難しくないことは、ご理解いただけたかと思います。それでは、特許が取得しやすいアイデアとは、どんなものなのでしょうか。
ビジネスモデル特許が認められるために必要な、主な要件は、発明であること、新規性、進歩性の3つです。詳しくは、「ビジネスモデル特許が認められるための重要な3つの要件」をご確認ください。
ビジネス方法を、インターネットやコンピュータを介して実現したものであれば、1つ目の「発明であること」の要件は満たします。
また、今まで世の中になかったもの、誰も考えついたことのないものであれば、「新規性」の要件は満たします。
問題は、「進歩性」です。進歩性は、すでに世の中に知られた発明や技術等に基づいて、容易に考えつくことができないものであること、を言います。
そこで、思い出していただきたいのですが、上で説明しました、特許第5377961号は、なぜ特許が認められたのでしょうか。すでに、述べたように、特許第5377961号の請求項の内容は、「商品の取出要求を受けると、ステーションを選択し、棚を選択し、移動駆動ユニットを選択する」といったようにシンプルなものです。
それでも、特許が認められたのには、理由があります。
それは、発想そのものの斬新さがあったためです。
通常であれば、ECサイトで注文を受けると、人が倉庫内を移動して商品をピックアップし、商品を段ボール等に収納し発送するという発想になります。しかし、キヴァシステムでは、ピッカーがいるステーションまで、床の上を走行する自動駆動ユニットが商品を収納した棚を移動させます。
このようなビジネスモデルの発想そのものが斬新であれば、システムが非常にシンプルなものでも、特許になる可能性は高まります。
特許庁の審査では、多くの場合、先に出願されて公開をされている特許出願をもとに、発明の新規性・進歩性の判断が行われます。ですから、ビジネスモデルそのものの発想が斬新であれば、それを実現するシステムがシンプルなものであったとしても、過去に似たような出願がされている可能性は少なくなりますから、当然、特許が認められる可能性は高くなります。
それでは、既存のビジネスモデルの中で利用されるアイデア、技術、システムなどは、特許が認められることは難しいのでしょうか。
すでに述べたように、特許庁の審査では、多くの場合、先に出願されて公開をされている特許出願をもとに、発明の新規性・進歩性の判断が行われます。既存のビジネスモデルの場合は、すでに多くの特許出願がされていますから、それだけ特許が認められるのは難しくなるでしょう。
ただ、既存のビジネスモデルの中でも、従来にない発想を持ち込むことができれば、特許は認められやすくなります。
その一例として、DVDなどのレンタル事業で有名なTSUTAYAの特許4854697号(発明の名称:レンタル商品を配送者を通じてレンタル店に返却するためのシステム)をご紹介します。
レンタル商品を貸し出し、店舗にて返却することは従来から行われていました。しかし、レンタル商品を借りた顧客は、返却のため店舗までおもむく必要があり、店舗まで行くのが面倒である、という問題がありました。それを解決するために、配送者を通じてレンタル商品を返却することが考えられるのですが、その場合、配送者がレンタル商品を顧客から引き受けてから、店舗に届けられるまでに時間の開きがあるため、返却期限の管理が難しくなります。
それを解決するのが、この特許です。
発明の内容を簡単に説明すると、「商品が配送者に回収された際に、配送者が商品を回収した日・時間帯からなるデータを、商品の識別子と関連づけてレンタル店に知らせ、レンタル店に商品が配送された際にレンタル商品が実際に返却されたことを認証する」というものです。
発明のシステムそのものは、シンプルです。しかし、従来から行われていた商品のレンタルというビジネスモデルにおいて、配送者を通じて商品を返却するという発想は、それまでになかったものです。
このように、既存のビジネスモデルであったとしても、そのビジネスモデルに新しい発想を持ち込み、それを実現するためのシステムを作り出すことができれば、そのシステムがシンプルなものであったとしても、特許が認められる可能性は高くなります。
まとめると、ビジネスモデルそのものの発想が斬新な場合や、既存のビジネスモデルに新しい発想を持ち込んだ場合は、それを実現するシステムがシンプルなものであったとしても特許は認められやすい、と言えそうです。
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